2023年8月23日、警視庁が今年1月から5月にかけ全国で相次いだ犯行予告に関与していたとして男2人を威力業務妨害の容疑で逮捕したことが報じられました。男らは30万件以上の行為に及んでいたとも報じられています。ここでは関連する情報をまとめます。
実在弁護士になりすまし全国に脅迫行為
- 威力業務妨害の容疑で逮捕されたのは二人の男。2023年1月23日7時から7時半にかけ、東京音楽大学に対して金銭(30万円)の支払いに応じなければ334個の爆弾を起爆するなどと書かれた内容をファックスで2回送信し、この対応を受け大学側の業務を妨害した疑いがある。爆弾は実際に使われてはおらず、ファックスの送信元として記載されていた名前や振込先の口座情報に無関係の弁護士の名前が使用されていた。
- 動機について、男Aは「ファックス送信による嫌がらせを立案しアピールをしたかった」、男Bは「ファックスを送ることで大事になり面白いと思った」と取り調べに対し供述し容疑を認めている。また「恒心教を広めたいと思った」とも話していた。*1
- 二人はX(旧Twitter)の相互フォロー後に知り合い関係になったとみられ、直接の面識は一度もなく、互いの本名も知らない間柄だった。役割分担として、男Bが番号リストを作成し、男Aが主に脅迫文書の作成や送信行為を行っていたと警視庁はみている。*2 *3
- 2023年1月から5月にかけて同様の手口で全国の学校や企業、自治体に対しファックス送信された脅迫文書は合計30万件超の形跡が残っていた。*4 男らはファックス送信の実行前後に掲示板へ書き込んでいたとみられ、1月23日には大学572校、24日には高校4905校、25日には中学9701校に対し送信されていた可能性がある。*5

「聖地巡礼」から被疑者浮上
- ファックスの送信はインターネットを通じて利用可能なサービスから行われており、男らは当該サービスにTor経由でアクセスしていた。
- 警視庁に対し関与している可能性があるX(旧Twitter)の特定アカウントに関する情報提供があった。警視庁がそのアカウントを調べたところ、1月下旬に三重県のマンション(当該活動を行う人物らの中で聖地巡礼と称された行為)を訪れたとする投稿が行われており、実際にそのマンション周辺の防犯カメラ映像より、男が訪問後すぐ逃走する様子が確認された。
- 防犯カメラのリレー捜査などを通じて、東京にある大学学生寮までたどり着き、警視庁は男Bが関与している可能性があると特定。その後男Bを邸宅侵入などの容疑で逮捕した。さらに他人になりすまし、弁護士の懲戒請求文書を弁護士会に送ったとして有印私文書偽造・同行使の容疑でも逮捕された。*6 男Bはその後東京地裁に送検されており、公判で起訴された内容を認めている。*7
- 警視庁は男Bの家宅捜索でPC、スマートフォンを押収。男Aとの間でX(旧Twitter)上でファックス送信に関するやり取りを行っていたことが解析より判明し、男ABとも威力業務妨害の容疑で逮捕した。
- ファックス送信サービスのアカウントには、男らとは別の名義のカード情報や、秘匿性の高いスイスの会社が運営するメールサービスが登録されていた。*8犯行に悪用されたファックス送信サービスの運営会社は利用時の本人確認手段などの取材に対し捜査協力を行うとのみ回答を行っていた。*9 *10
- 他人のクレジットカード情報は、支払いにクレジットカードが利用できる別の外部サイトの決済ページを改ざんし、そこから情報を盗んでいたとみられている。複数の風俗店のサイトや別業種のサイトに対して不正アクセスを行っていた形跡が男Aより確認された。*11
- 男らは他人のクレジットカード情報をファックス送信以外に複数の用途に使用していた。2023年5月に他人のクレジットカードを不正に用いて、家電量販店の通販サイトより販売価格2万3千円のSSD1台を購入したとして、警視庁は私電磁的記録不正作出・同供用と窃盗の容疑で二人を再逮捕した。SSDは男AのPCから押収された。*12 *13

学校教育で情報技術習得
関連タイムライン
日時 | 出来事 |
---|---|
2022年秋頃 | 男AとBがX(旧Twitter)を通じて知り合い関係となる。 |
2023年1月23日 | 東京音楽大学に対して爆破予告が届く。 |
2023年1月下旬 | 男Bが三重県のマンションを訪れたとX(旧Twitter)に投稿。 |
: | これ以降全国の学校、大学、自治体、企業に対して同様の犯行予告が行われるようになる。 |
2023年3月 | 警視庁へ外部から犯行関与が疑われるSNSアカウントに関する情報提供。 |
2023年6月1日 | 警視庁は男Bを邸宅侵入の容疑で逮捕。 |
2023年6月11日 | 警視庁は男Bを別件のファックス送信を行った事案をうけ再逮捕。 |
2023年6月22日 | 東京地検は男Bを邸宅侵入、有印私文書偽造・同行使の容疑で起訴。 |
2023年6月26日 | 警視庁は男Bを著作権法違反の容疑で再逮捕。 |
2023年8月1日 | 東京地検は男Bを著作権法違反の容疑で起訴。 |
2023年8月2日 | 警視庁は男Aを威力業務妨害の容疑で逮捕。 |
2023年8月3日 | 警視庁は男Bを威力業務妨害の容疑で再逮捕。 |
2023年8月23日 | 男二人による大規模な犯行予告事案の摘発について報道。 |
同日 | 男二人を威力業務妨害の容疑で起訴。 |
2023年8月29日 | 警視庁は男二人を私電磁的記録不正作出・同供用および窃盗の容疑で再逮捕。 |
2023年9月6日 | 東京地裁で邸宅侵入、有印私文書偽造・同行使にかかる男Bの初公判。 |
更新履歴
- 2023年8月29日 PM 新規作成
- 2023年8月30日 AM 概要図追加
- 2023年9月5日 PM 続報反映
*1:爆破・殺害予告、30万件超 ファクス送信疑い 2人逮捕,朝日新聞,2023年8月23日
*2:「恒心教」名乗り爆破予告、FAX30万件超か「大ごとになって面白い」 男2人逮捕 旧ツイッターで共鳴,東京新聞,2023年8月23日
*3:男2人は面識なし、本名知らず つながりは「恒心教」 FAX脅迫,朝日新聞,2023年8月23日
*4:「ファクス使い嫌がらせ、アピール」 爆破予告送信の疑い 警視庁、2人逮捕発表,朝日新聞,2023年8月23日
*5:学校に脅迫ファクス「1.5万件」 ネット掲示板に内容同じ文書,朝日新聞,2023年1月31日
*6:鳴りやまない電話 脅迫FAXで使われた弁護士「誰にも起こりうる」,朝日新聞,2023年8月25日
*7:「恒心教」共鳴の大学院生、邸宅侵入罪で初公判 起訴内容認める,産経新聞,2023年9月6日
*8:他人カードでFAX送信 容疑者、不正入手か 爆破予告,朝日新聞,2023年8月24日
*9:悪用されたとみられるサービス(piyokango推定)は利用にあたり本人確認資料を用いた申請が必要。
*10:匿名化システム使うネット犯罪 立件の鍵は「聖地巡礼」で残した痕跡,朝日新聞,2023年8月23日
*11:ハッキングで情報入手か カード入力ページをすり替え 爆破予告被告,朝日新聞,2023年8月31日
*12:「恒心教」称する2人再逮捕 他人のカード情報で不正に買い物疑い,朝日新聞,2023年8月29日
*13:爆破予告ファクスの2人再逮捕 他人クレカで不正購入か,日本経済新聞,2023年8月29日
*14:脅迫ファクス送信容疑の大学院生 国費でサイバー防衛を学んでいた,朝日新聞,2023年8月23日
*15:(時時刻刻)匿名嫌がらせ、顕示欲の闇 ネット経由のファクス、送信元不明,朝日新聞,2023年8月23日
*16:国のサイバープログラム、倫理教育拡充へ 「恒心教」の容疑者が参加,朝日新聞,2023年8月29日