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江崎グリコの基幹システム移行トラブルについてまとめてみた

2024年4月5日、江崎グリコは基幹システムの切り替え後にシステム障害が発生し、同社や販売委託を受けている一部の冷蔵食品の出荷に影響が生じていると公表しました。ここでは関連する情報をまとめます。

障害後緊急対応するも在庫数合わず業務停止

  • 今回システム障害が起きたのは江崎グリコの基幹システムで2024年4月3日の新システムへの移行に伴い発生した。物流、販売、会計などを一元管理するERPパッケージ SAP社製「SAP S/4HANA」で構築されており、「顧客への継続的価値創出を可能にするバリューチェーン構築と経営の迅速な意思決定を目的とした、調達・生産・物流・ファイナンスなどの情報を統合する基幹システム」と同社では説明している。障害原因の詳細は同社から開示されてはいないが、システム障害の問題個所の特定は済んでいる。なおサイバー攻撃によるものではないと取材に答えている。*1
  • システム障害の影響により同社のチルド(冷蔵)食品17品目(乳製品、洋生菓子、果汁、清涼飲料など)の4月14日以降の受発注および出荷業務に影響が出た。*2 チルド食品以外の常温、冷凍食品の出荷業務もシステム障害の影響を受けているが、チルド食品と比べ賞味期限が長いことから継続して行われている状況。*3 また同社が販売受託しているキリンビバレッジのチルド食品37品目も同様に出荷停止の状況となった。(江崎グリコがチルド食品の販売委託を受けている企業はキリンビバレッジのみ。) そのため、物流センターから小売店へ配送ができない状況となった。*4 今回のシステム障害がチルド食品だけに影響が大きく及んだ理由については調査中と取材に答えている。
  • システム障害発生直後は基幹システムを利用せず手作業にて出荷業務を継続していたが、倉庫内とシステム上(在庫管理機能は稼働させていた)の在庫数が一致しない状況が確認され、チルド食品は物流センターにおける入出荷の期間が短く、手作業での修正作業では対応が追い付かなくなっていたことから、業務の一時停止の判断を行った。*5
影響が及んだ組織 影響対象のチルド食品
江崎グリコ 17品目
BifiX、朝食りんごヨーグルト、ヨーグルト健康、おいしいカスピ海、プッチンプリン、とろ〜りクリームon、カフェゼリー、カフェオーレ、スイーツ系乳飲料、幼児向け飲料、100%果汁飲料シリーズ、野菜足りてますか?、機能性乳飲料、グリコ牛乳、アーモンド効果、高原特選牛乳、グリコJA牛乳さが生まれ
キリンビバレッジ 37品目
トロピカーナ、無添加野菜、毎日果菜、トマトジュース、ファイア ゴールドラッシュ、午後の紅茶、生茶(いずれも紙パック)

業務再開するもデータ不整合生じ再び停止

  • 停止中であったチルド食品の出荷業務は4月18日より一部再開すると同社が案内をしていたが、出荷業務再開後に物流センターでの出荷関連データの不整合が発生したことと、注文処理が間に合わなくなってしまったことから再度停止する事態となった。出荷再開時期について、6月中を目指すとの報道もあるが同社公表では5月1日時点で未定としている。*6当初業務再開は5月中旬を同社は目途としており、どのような対応をとるか(業務見直しやシステム改修など)も検討中としていたが、その後システム改修作業に時間を要しているとして出荷停止期間を延長した。*7 *8 なお、給食用牛乳は通常通り提供が継続されている。
  • この出荷業務の再停止を受けて、同社子会社のグリコマニュファクチャリングジャパンの4工場(東京、那須、岐阜、佐賀)でも4月18、19日以降牛乳や乳製品の大半について製造停止を行っている。*9 佐賀工場においては、酪農家からは生乳の受け入れを継続するも、牛乳製造に回すことができず脱脂粉乳などの加工品へ回されることが見込まれており、乳価低下を受けて酪農家への収入にも影響が及ぶ可能性が懸念されている。*10 *11
  • 同社の有価証券報告書によれば、2019年12月よりシステム刷新のプロジェクトが開始され、開始当時は2022年12月完了予定であったがその後2024年3月まで切り替えが延期となった。これを受けてシステム刷新に要した投資費用も215億円から342億円と増額されている。*12 今回の基幹システム入れ替えは、複数のITベンダーがかかわっていると同社は個社名は開示しない方針と回答。主幹ベンダーとして個社名を報じる記事などもあるが、当該企業も事実関係については守秘義務により話すことはできないと回答している。*13 *14

関連タイムライン

日時 出来事
2011年 江崎グリコとキリンビバレッジが業務提携。*15
2019年12月 基幹システム刷新のプロジェクト開始。
2024年4月3日 基幹システムの切り替えを実施。
2024年4月5日 切り替え後の基幹システムで障害が発生していると公表。
2024年4月12日 4月14日以降、チルド食品の物流業務を一時停止すると公表。
2024年4月14日 全国の物流センターでチルド食品の業務を一時停止。
2024年4月17日 4月18日より停止中の物流業務の一部を再開すると公表。
2024年4月18日 停止中の一部物流業務を再開するも問題発生し再度停止。
2024年4月18日、19日 子会社の乳製品工場で大半の製造業務を停止。
2024年4月19日 チルド食品出荷業務を再停止したと公表。
2024年4月24日 販売受託しているキリンビバレッジのチルド食品の一部も出荷停止の状況であると公表。
2024年5月1日 出荷停止期間を延長すると公表。

更新履歴

  • 2024年4月26日 AM 新規作成
  • 2024年5月2日 AM 続報反映(出荷再開の延期等)

*1:江崎グリコ「プッチンプリン」など冷蔵品のほぼ全品出荷停止、物流・調達システムに障害…5月中旬の再開目指す,読売新聞,2024年4月19日

*2:同社が公開する販売店検索チャットボットも利用できない状況となっていた。

*3:グリコ、「プッチンプリン」出荷再開延期 「6月中」,日本経済新聞,2024年5月2日

*4:チルド食品の出荷停止 システム障害で―グリコ,時事通信,2024年4月19日

*5:グリコ障害で出荷停止、基幹システム更新に「2025年の崖」,日本経済新聞,2024年4月23日

*6:「プッチンプリン」など出荷再開を延期、システム障害解消に時間…6月中の再開目指す,読売新聞,2024年5月1日

*7:冷蔵食品の出荷停止、長期化 6月中の再開目指す―グリコ,時事通信,2024年5月1日

*8:「トロピカーナ」なども出荷停止 江崎グリコのSAPトラブル、キリンビバにも飛び火,ITmedia,2024年4月24日

*9:江崎グリコ基幹システムトラブル、乳業4工場の大半を約1カ月製造停止に,日経クロステック,2024年4月25日

*10:江崎グリコのシステム障害 佐賀工場、「学校給食用牛乳」以外を製造停止,佐賀新聞,2024年4月27日

*11:ブランド牛乳もストップ 江崎グリコのシステム障害、広がる影響,毎日新聞,2024年5月2日

*12:稼働が1年超遅れたグリコの基幹システム刷新、投資額は当初比1.6倍の342億円に,日経クロステック,2024年4月22日

*13:プッチンプリンなど出荷停止 小ロット・短納期で受注データがシステムの負荷に?,産経新聞,2024年4月25日

*14:グリコ「17種類出荷停止」巨大プロジェクトで誤算,東洋経済ONLINE,2024年4月25日

*15:キリン、グリコと提携 清涼飲料の物流・販売委託,日本経済新聞,2010年7月7日