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令和6年能登半島地震の偽情報関連の報道についてまとめてみた

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震に乗じ、XをはじめとしたSNS上でデマや詐欺とみられる投稿が拡散されていると報じられました。ここでは関連する情報をまとめます。

SNS上に多数投稿された偽情報

  • 根拠不明な情報を元にした主張や偽の救助要請など、SNS上にデマとみられる投稿を行う行為が能登半島地震の発生後において多数確認された。*1災害発生に乗じた偽情報を拡散する動きは2016年4月の熊本地震*2、2018年9月の北海道胆振東部地震*3でも同様の事象が発生しており逮捕者が出たケースもある。*4
  • Xでは注目を集めた投稿はリポストだけでなく、内容をコピーして直接別のアカウントから行われるケース(救出要請の情報まとめなど)も多数確認され、根源となった投稿が削除されたとしても偽情報の拡散が止まらない事態が起きている。
  • このような偽情報が拡散されている状況について、愉快犯のほか、投稿者自身の政治的な主張や根拠のない陰謀論に結びつけること、さらにはXより収益を得るため大量のインプレッション稼ぎを目的としたものの可能性を指摘する声がある。*5 *6 *7 *8
収益目的とみられる偽情報投稿が行われる流れ

能登半島地震関連のデマや偽情報として、報道で取り上げられていた主な事例は次の通り。

事例(1) 人工地震原因と主張
  • 能登半島地震に発生原因があるとして、人工地震説について言及する投稿がX上で相次ぎ行われた。今回に限らず、地震発生時に人工地震が原因である可能性を疑う動きは過去の地震発生時でも見られ、2022年3月の福島県沖地震の際もX(当時Twitter)上で一時トレンドに入るほどだった。*9「自然の地震ではない可能性がある」などと述べている気象庁の会見の様子を添付した投稿もあったが、2016年に北朝鮮による核実験の際に行われた会見時の動画を切り抜きしたものだった。*10 他には人工地震動画として水中での爆発が起きた様子を収めた動画も投稿されていたが、これは2021年6月の米海軍による空母の耐衝撃性能試験を撮影したものだった。*11
  • 今回の地震の地殻変動は自然に発生する地震と何ら変わらない特徴であると専門家は分析しており、震源の深さやマグニチュードなどを例示し、人工地震ではないと断言。根拠のない主張を否定。地震兵器の存在が主張されていることに対して、気象庁はそのような兵器は存在せず、誤情報に惑わされずに気象庁の発表情報に留意してほしいと反応。*12
  • 拡散状況として、2024年1月2日17時半頃までに否定する投稿も含め約25万件(NHK調べ)、2024年1月4日0時までには約37万件(朝日新聞調べ)の関連する投稿が行われており、850万回近く閲覧がされた投稿も確認された。*13 また人工地震や津波の軍事利用を禁じる国際条約に触れた投稿は約259万件の閲覧がされており、さらに投稿中に記載されていた条約を説明するサイトは投稿を通じ約14億回以上の閲覧がされていた。*14
「人工地震」のYahoo!Japanのリアルタイム検索状況(1月5日17時点時点)
事例(2) 偽の救助要請
  • 家族が家の下敷きになっているなどという内容で、♯助けて♯能登地震♯拡散希望などとハッシュタグをつけたり、能登半島地震とは直接関係のない画像を添付したりして、救助を呼びかける30件以上の投稿がX上に行われた。*15一部は実際に親族関係者が行った投稿だったとみられるが、それらの投稿を模した内容で投稿が複数行われていた。*16 「石川県川永市」など救助を要請する場所に架空の住所が含まれているものも複数確認された。
  • 一部の模倣投稿を行っていたアカウントはその後救出されたなどとしてX上でPayPayでの寄付を呼び掛けており、寄付金と称した金銭詐欺目的の投稿だった可能性がある。*17 *18 投稿に対しては、実際に送金を行ったとする他の利用者の投稿もある。*19
  • PayPayも被災者を装ったPayPay残高を受け取ろうとする事案を確認したとして注意を呼び掛けた。*20
]
偽の救助要請の投稿の例
事例(3) NHKロゴを入れた偽投稿
  • 北陸電力の志賀原子力発電所が地震の影響を受けたとして、「放射性物質を含む水が2基で約420リットル漏洩中」という内容で投稿が行われ、添付された画像中にNHKのロゴが掲載されていた。(投稿は既に削除されている。)実際に1号機より約95リットル、2号機より約326リットルが使用済み燃料プールから放射性物質を含む水が底面に漏れたことが北陸電力より公表されているが、
  • NHKはロゴを不正に使用した偽の投稿が行われているとして、報道機関に偽装した情報が出回っている恐れがあると注意を呼び掛けた。*21
NHKロゴを入れた偽投稿(削除済みのためアーカイブより)
  • 志賀原発では地震により変圧器の配管が破損したことで約1万9800リットル(当初想定は3500リットル)の絶縁油の漏洩が起きており、問題の投稿に添付された画像にはその時の様子として北陸電力が公開した写真が含まれていた。なお漏洩した油は回収が完了したと北陸電力が公表している。*22
  • 油漏れをめぐっては、当初変圧器点検を行った作業員が爆発音があり焦げ臭いにおいがあると報告を行っていたが、その後変圧器の圧力低下を行う装置の作動音と漏洩した絶縁油のにおいであったことが判明している。この続報をトレースがされずに、当初誤認であった事象から火災発生とする偽情報を投稿するものもあった。*23 また誤報を受けて爆発音があったと報じた記事が削除された動きを見て、先の人工地震や隠ぺいが行われているなどと主張する投稿も拡散されていた。*24
事例(4) 東日本大震災の動画転載
  • 「津波到達となった瞬間NHKアナウンサーがすごい怒鳴っている!」2011年の東日本大震災で、岩手県宮古市の津波映像を加工したとみられる動画を用いて、今回の能登半島地震のものであるかのような投稿が行われた。*25 1月2日15時時点で約280万回表示、約3800件のいいねがつけられた投稿もあった。加えてまったく同文(かつ大半は同じ東日本大震災の津波動画を添付)の投稿が少なくとも30件以上、複数のアカウントより地震発生後から連日行われていた。
X上に多数の同じ文章が投稿
その他
  • 災害などの用途でも重宝されるポータブル電源について、ヤフオク上で即決1円で複数の出品が行われていた。いずれも送料は落札者負担となっている。同じ出品者からの購入者がつけているコメントには高額の送料を要求されたとする書き込みがあった。*26
即決1円だが高額送料が請求される恐れ

政府は事業者へ適切な対応要請

  • 岸田首相は1月4日の記者会見で能登半島地震に関するSNSでの偽情報拡散の対策を説明。実在しない住所や能登半島地震とは無関係の画像を用いて救助を求めるフェイクニュースがSNS上で拡散されている、悪質な虚偽情報は許されるものではないと言及。*27 デジタルプラットフォーム事業者に利用規約を踏まえた適切な対応をとるよう総務省を通じて要請していると話した。*28 要請は1月2日付で行われており、対象はX、メタ、Google、LINEヤフーの4社。*29
  • 官房長官や総務大臣は1月5日記者会見で災害時における偽情報について、「迅速かつ円滑な救命救助活動の妨げになりかねないもので犯罪にもつながりうる」と発言した。*30 *31
  • 総務省は偽情報の拡散が行われているとして注意を呼び掛ける投稿をXに行っている。また内閣府もデマに惑わされないよう公共機関の情報の確認を行うよう、「流言は智者に止まる」ということわざを用いて国民に対し呼び掛けている。

更新履歴

  • 2024年1月5日 PM 新規作成
  • 2024年1月6日 AM 続報反映(政府要請等)
  • 2024年1月9日 AM 表記修正(ヤフオク出品を「その他」に修正)

*1:災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか,日本ファクトチェックセンター,2024年1月5日

*2:「ライオン逃げた」熊本地震のデマ情報を拡散した疑い 20歳男を逮捕,HUFFPOST,2016年7月20日

*3:北海道地震、SNSでデマ拡散 専門家「発信元確認を」,日本経済新聞,2018年9月11日

*4:「いくら正しい情報が来ても簡単には否定できない」飛び交う被災地のニセ情報…SNSでデマ拡散のナゼ,静岡新聞,2024年1月2日

*5:能登半島地震、Xで津波や救助要請のデマ拡散 背景に広告収益,毎日新聞,2024年1月2日

*6:能登半島地震でXトレンド入り、フェイクとコピペの「インプ稼ぎ」とは,新聞紙学的,2024年1月2日

*7:能登半島地震で「デマ」再び、東日本大震災時から様変わりしたそのリスクとは,ダイヤモンドオンライン,2024年1月4日

*8:善意につけ込む偽情報 震災時に…なぜ投稿? SNSで「悲劇の現金化」が… 記者も実践! ウソを見極める方法とは【#みんなのギモン】,日テレNEWS,2024年1月5日

*9:「人工地震ではありません」災害デマやフェイク、専門家に詳しく聞きました,NHK,2022年3月17日

*10:「気象庁が能登の地震波形人工的と認めた」は誤り 2016年北朝鮮核実験時の会見,リトマス,2024年1月3日

*11:「能登半島地震と偽る過去の津波映像や人工地震説など」の言説は誤り【ファクトチェック】,日本ファクトチェックセンター,2024年1月3日

*12:能登地震、偽情報がSNSで拡散…架空の地名で「助けて下さい」・原因は「人工地震」,読売新聞,2024年1月3日

*13:SNSで“人工地震が原因”など不安あおる偽情報投稿 拡散,NHK,2024年1月2日

*14:「人工地震」含む投稿37万件 能登地震関連、偽情報拡散の背景とは,朝日新聞,2024年1月5日

*15:地震後 SNSに偽「救助要請」多数 収益目的 “インプ稼ぎ”か,NHK,2024年1月5日

*16:地震や事故後、SNSで相次ぐデマ 表示数稼ぎも「拡散前に疑って」,朝日新聞,2024年1月3日

*17:能登地方地震の被災者装う詐欺か。PayPayで自身への寄付募る投稿。住所が地図上に表示されず…,HUFFPOST,2024年1月2日

*18:無関係の津波動画に、架空の住所から支援金要求 能登半島地震でSNSに偽情報拡散,産経新聞,2024年1月2日

*19:SNSで偽情報拡散 送金催促や過去動画流用,日本経済新聞,2024年1月3日

*20:SNSなどでの「送る・受け取る」機能を用いた不正とみられる行為にご注意ください,PayPay,2024年1月5日

*21:SNSでNHKのロゴ使った地震関連の“偽投稿”も 注意を,NHK,2024年1月4日

*22:令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報),北陸電力株式会社,2024年1月5日

*23:震度7の志賀原発で変圧器の配管損傷、油漏れ 火災は発生せず 日本海側のほかの原発で異常やけが人なし,東京新聞,2024年1月2日

*24:能登半島地震前日の“変電所で爆発音”の記事削除は「人工地震工作の隠蔽」は誤り【ファクトチェック】,日本ファクトチェックセンター,2024年1月4日

*25:SNS上に“ニセ情報”が次々…無関係の災害映像も 能登半島地震,テレビ朝日,2024年1月2日

*26:能登半島地震に便乗して詐欺横行 ボランティアにまぎれ新興宗教勧誘も,東スポWEB,2024年1月6日

*27:首相、能登半島地震のフェイクニュース拡散「許されない」 公共機関の情報確認を呼びかけ,産経新聞,2024年1月4日

*28:能登半島地震で偽情報拡散 岸田首相「事業者に対応要請」,日本経済新聞,2024年1月4日

*29:能登地震の偽投稿、総務省がXなどプラットフォーマー4社に対応要請,朝日新聞,2024年1月6日

*30:地震巡るSNS偽情報、事業者に削除要請 官房長官「救助妨げ」,毎日新聞,2024年1月5日

*31:地震に関するSNS偽・誤情報、削除念頭にグーグルなどに対応要請…総務相「犯罪にもつながりうる」,読売新聞,2024年1月5日