楽天モバイルへ転職したソフトバンク元社員の社外秘情報持ち出しについてまとめてみた

2021年1月12日、ソフトバンクは元従業員が退職申告後に同社の営業秘密を不正に持ち出したとして、不正競争防止法違反で逮捕されたことを発表しました。転職先である楽天モバイルも同日に従業員が逮捕されたことを発表しています。ここでは関連する情報をまとめます。

同業転職した元従業員を逮捕

不正競争防止法違反（営業秘密の領得）で逮捕されたのは楽天モバイル従業員の男。
男は携帯電話基地局の設置工事などに従事。線路主任技術者の資格も保有している。
警視庁生活経済課は楽天モバイルから男に対し、スムーズな転職条件として楽天モバイル側から不正持ち出しの指示があり、ファイルの持ち出し行為は計画的に行われたとみて捜査中。*1
警視庁は男の容疑の認否を明らかにしていない。また動機や使途の供述も1月12日時点では報じられていない。
楽天モバイルは同業者から技術者などリクルートしており、男も知人の紹介などで転職したとみられる。*2

約170のファイル持ち出し、ファイル名も変更

自宅、楽天モバイルから押収したPCを解析し、約170のファイルを約30回にわたり持ち出した痕跡が確認された。*3
不正に持ち出された営業秘密は基地局設備、固定通信網（基地局同士、基地局と交換局の接続）に関連する技術情報。
男は顧客関連など個人情報、通信の秘密に係る情報、法人顧客に該当する情報のアクセス権限はなく、持ち出しは確認されていない。
持ち出されたファイルはパスワード管理で保護されていたが、男は知る立場にあった。*4
転職先の楽天モバイルのサーバーや業務PCに持ち出された営業秘密情報が保管されていた。多くのファイルは名前が変更されていた。*5 *6

持ち出された情報として具体的に次の報道がされている。

4G/5Gの基地局（マンション、私有地など）の設置場所
伝送網構築の工期短縮、設計コスト削減に係る資料
NTT設置の光ファイバー回線網*7

自宅から接続しファイルをメール送信

退職日当日など、男の自宅から私物PCでソフトバンクの利用するクラウドサーバーに接続。営業秘密を含むファイルをフリーアドレス宛に添付、送信。*8 *9
ソフトバンクは退職後に返却された社有PCからメール送信の痕跡を確認し発覚。*10

ソフトバンクの追加施策

ソフトバンクは当該事案発生を受け、2020年3月以降次の追加施策による順次実施したと説明。

なお、これまで当社は、全社員に対して定期的に秘密保持契約の締結やセキュリティー研修などを実施してきましたが、今回の出来事を受けて、再発防止施策として以下の追加施策を2020年3月以降、順次実施しました。
・情報資産管理の再強化（管理ポリシーの厳格化、棚卸しとアクセス権限の再度見直し）
・退職予定者の業務用情報端末によるアクセス権限の停止や利用の制限の強化
・全役員と全社員向けのセキュリティー研修（未受講者は重要情報資産へのアクセス不可）
・業務用OA端末の利用ログ全般を監視するシステムの導入

持ち出された情報に対する2社の見解

ソフトバンク、楽天モバイルは今回の事案報道を受け同日にプレス発表を行っており、2社は不正持ち出しされた情報について次のように発表している。

楽天モバイルへ転職した元社員の逮捕について（ソフトバンク）
従業員の逮捕について（楽天モバイル）

ソフトバンク	楽天モバイル業務PC内に保管されていた。既に何らかの形で利用している可能性が高い。
楽天モバイル	営業秘密の自社業務利用は確認されず。当該秘密に5Gに関連する技術情報は含まれていない。(1/12発表時点)

ソフトバンクは男の逮捕発表とともに、楽天モバイルに対し営業秘密の利用停止と破棄を求める民事訴訟を提起する方針であり、男への損害賠償請求も検討していると公表。

ソフトバンクが楽天モバイルと男へ訴訟提起

楽天モバイルと楽天モバイル元社員に対する訴訟を提起 1,000億円規模の損害賠償請求権を主張
ソフトバンクは楽天モバイル、男（楽天モバイル元社員）に対して以下の請求を不正競争防止法に基づき行ったと発表。提起先は東京地方裁判所。

楽天モバイル、男に対する損害賠償請求（約1000億円の損賠外傷請求権の一部として10億円）
楽天モバイルの不正競争により建設された基地局の使用差止請求、および廃棄請求
男がソフトバンクから持ち出した電子ファイル等の使用・開示差止請求、および廃棄請求

男の初公判

2021年12月7日に東京地裁で初公判。*11
男は持ち出した情報について、営業秘密との認識はなかったとして無罪を主張。弁護側は持ち出された情報にはパスワードが設定されておらず営業秘密に該当しない、他社にとっての利用価値もないとした。
検察側は転職が決まった後、機密情報を持ち出したのでかっつりやりましょうとLINEでメッセージを送っていたと指摘。

日時	経緯
2004年7月	男がソフトバンクグループに入社。
：	男は伝送エンジニアとしてソフトバンクの業務に従事。
2019年11月下旬	男がソフトバンクに退職を申告。
2019年11月下旬～12月31日	男がソフトバンクの営業秘密情報を約30回に渡り持ち出し。
2019年12月31日	男がソフトバンクを退職。
2020年1月1日	男が楽天モバイルに入社。
2020年2月	ソフトバンクが男の元社有PCから技術情報を送信した痕跡を確認。
2020年3月	ソフトバンクが警視庁へ被害相談。再発防止策を順次実施。
2020年8月	警視庁が男の自宅や楽天モバイルを家宅捜索。
2021年1月12日	警視庁は男を不正競争防止法違反の容疑で逮捕。
同日	ソフトバンクが元従業員が逮捕されたと発表。
同日	楽天モバイルが従業員が逮捕されたと発表。
2021年5月6日	ソフトバンクが楽天モバイル、楽天モバイル元社員に対し損害賠償請求権の一部を求める民事訴訟。
2021年12月7日	東京地裁で男の初公判。