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特別定額給付金のオンライン申請で起きた問題についてまとめてみた

5月以降開始された特別定額給付金のオンライン申請をめぐり複数の問題が発生しました。この問題を受け、郵送方式での申請を一部の自治体では推奨しています。ここでは関連する情報をまとめます。
kyufukin.soumu.go.jp

オンライン申請で起きた3つの問題

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給付金オンライン申請をめぐる問題
今回の申請で生じた問題は大きく3つ。

  1. 署名用電子証明書の手続きに伴うシステム遅延、役所窓口混雑
  2. 申請内容不備や重複申請が簡易なものを含め相当数発生
  3. 申請データ突合が手作業のため1日あたりの処理可能件数が少ない

問題① オンライン申請のために窓口殺到

  • マイナンバーカードのパスワードがわからない等と自治体の窓口に出向く人が多数発生した。申請に必要な署名用電子証明書の新規発行・更新、パスワードの変更、ロック解除等が目的。
  • 郵送方式で申請する場合は保険証、免許証の控えが利用できるが、給付金申請にマイナンバーカードが必須と誤解しているケースもあった。
  • カードの新規発行は11日~15日で平均8万6000件で3月の3倍以上、署名用電子証明書の新規発行は1日2万~3万件で通常の10倍以上。*1
署名用電子証明書 マイナンバーカードの住所変更時に一緒に更新していない場合失効する。再発行には窓口で行う。5回目の誕生日以降に更新していない場合も対象。
署名用電子証明書用パスワード 5回連続で誤るとロックされる。ロック解除は窓口で行う。パスワードはカード交付時に設定した英数字6~16桁。券面事項入力補助用パスワード(数字4桁)とは別。
システム遅延も発生
窓口が一時混雑した自治体例
東京都港区 窓口でのパスワード再設定のため、一時4時間待ちの状態が発生*5
東京都杉並区 給付金目的以外も含めマイナンバーカード関連で11日、12日に300人が来訪。一時4時間待ちに。*6
東京都墨田区 処理遅延のため窓口に来た住民より必要な資料を受領し、処理後に郵送する方式で対応。
兵庫県三田市 5月1日パスワードの再設定等の手続きで殺到し2時間待ちとなった。*7
兵庫県姫路市 カードの交付やパスワード再設定のために常時30~40人待ちの3密状態が発生。*8 システム遅延時は早めに受付を停止。*9

問題② 申請不備半数の自治体複数

  • 簡易なものを含め、申請内容の不備が相当数を占める事態が複数の自治体で発生した。*10
  • 入力されたデータにムラ(空白の有無等)が出るのは給付対象者の入力欄がフリーフォーマット形式であったことが一因とみられる。
確認されている不備事例
  • 銀行口座の通帳画像が添付されていない。
  • 振込先口座の名義人が誤って(半角スペースが入っていない、小文字のカタカナを使用)入力されている。
  • 銀行名が旧名だったり、文字間のスペースがなかったりしている。
  • 世帯主以外のカードを使って申請している。
  • 祖父母などの別世帯の分までまとめて申請している。
  • 子供が勝手に申請をしている。
  • 亡くなった人の名前が世帯員に記載されている。
重複申請多発、15回申請する人も
  • システムの仕組み上重複申請が可能な作りとなっていた。
  • 申し込み完了後に届くはずの申請完了を通知するメールが一定時間経った後に届くため、申請が完了していないと勘違いしてしまう人がいた。
  • これにより自治体側で申請されたデータが重複申請でないかを確認する作業が生じてしまった。重複申請をしている場合、対象者へ確認作業が生じる。
  • オンライン申請と郵送申請をどちらも行う人が発生している自治体もある。
  • 手続き完了メールが迷惑メールとして処理されてしまい、問い合わせを受ける別のトラブルも発生している。*11
  • 入力不備が多発している状況に対し、内閣府はマイナポータルは自治体と申請者をつなぐ導管としての役割であり、個人情報を管理しているのは国ではないため、システム上での確認はできないと取材にコメントしている。*12
申請不備が多数あった自治体例
大阪府大阪市 申請の半分程度に入力不備が確認されている。
香川県高松市 5月19日時点で7,101件の申請。その内約6割で申請内容に簡素な不備。約1割は申請が受理されなかった。*13 *14
兵庫県川西市 5月19日までに約3,000件の申請があり、半数に何らかの問題が認められた。
兵庫県西宮市 5月1日~13日で受付した申請約9,000件の内、約170件が重複申請だった。一人で15回申請している人もいた。*15
東京都八王子市 郵送申請との重複、入力ミスにより申請された約9500件の内、半数に問題が生じた。*16

問題③ 手作業の突合 1日100件限度の自治体も

  • 定額給付金の申請でオンライン化されているのは申請部分のみ。世帯情報は自治体が保持する情報のため、申請内容と住民基本台帳のデータ照合を行う必要があった。
  • マイナンバー自体は住民基本台帳の情報と紐づいているが、今回の給付金申請はマイナンバー法で定める利用目的に規定されていないため利用ができない。
  • 郵送方式は申請書にあらかじめ世帯主、世帯員の情報が印字されているため口座情報を記入するだけで済む。そのため一連の処理ではオンライン申請が何倍も時間を要する結果となった。郵送方式を推奨する自治体もいる。
  • マイナポータルに申請されたデータは「世帯主の名前.zip」というファイル名のZIP形式ファイルでダウンロードを行う。ZIP形式ファイルにはCSV形式の申請データと添付画像データが含まれている。

note.com

内閣府の対応

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無償ソフトの活用イメージ図(J-LISサイトより)

対応に苦慮する自治体例
東京都品川区 二人一組でチェック。5月13日時点で1日100件程度が限界と取材に回答。自動照合できるシステム開発を業者に依頼中。*17
栃木県宇都宮市 作業追い付かず各課に応援を要請。口座情報の突合含め66人の職員を投入。
システム改修等で対応した自治体例
東京都足立区 給付金担当部署を4月下旬に設置。
東京都江戸川区 4月下旬時点でオンライン申請のシステム構築に着手していた。*18
栃木県大田原市 業者へ急遽システム改修を依頼し、住基台帳の情報をバーコードを使いシステムへ読み込めるように行った。6月初旬支給の予定を5月22日に前倒しできた。*19
オンライン申請受付停止する自治体

オンラインでの申請内容に不備のあるものが多いとして申請自体の受付を一時停止した自治体

自治体 停止期間 理由
東京都調布市 5月20日午前9時~6月下旬まで 申請内容に不備が多く、審査作業に時間を要するため
東京都福生市 5月21日以降 オンラインと郵送申請における重複申請や二重払い防止のため
高知県高知市 5月20日以降 確認作業に時間を要し給付事務に支障あるため
香川県高松市 5月24日以降 申請内容に不備が多く、審査作業に時間を要するため
奈良県橿原市 5月25日以降 郵送申請の受付を開始したため
東京都八王子市 5月25日以降 郵送申請の給付事務を慎重かつ円滑に進めるため
山梨県笛吹市 5月23日以降 申請内容に不備多数を受け照合作業に時間がかかり給付事務に遅延が生じているため
秋田県秋田市 5月29日17時16分以降 不備多数のオンライン申請継続により二重払い確認等給付事務に遅延が生じる恐れのため
滋賀県湖南市 5月25日以降 オンライン申請の件数は5件以下に減少し郵送申請が主流となったため
北海道北見市 5月25日以降 郵送申請の受付開始に伴い、二重申請の確認も加わり給付事務遅延の可能性があるため
東京都荒川区 5月25日以降
岡山県笠岡市 5月25日以降
広島県福山市 5月28日以降 申請方式一元化を行うため
大阪府東大阪市 5月28日以降 オンライン申請の確認・修正に時間を要しているため
埼玉県新座市 5月29日以降
東京都武蔵野市 5月30日以降 郵送申請開始に伴う二重支払い、給付事務遅延の恐れがあるため
東京都町田市 5月29日~7月31日
大阪府八尾市 5月31日以降 オンライン申請継続する場合審査に時間を要するため
東京都杉並区 6月1日以降 5月26日までに全世帯主宛に申請書類の発送を完了したため
岡山県倉敷市 6月1日以降 申請内容に誤りが多く、確認・審査に時間を要しているため

(2020年5月27日時点)

郵送形式でも注意必要

  • 申請書中にある「希望しない」に誤ってチェックを入れてしまう人がいる模様。

  • チェック欄を設けた理由は給付金辞退の意思を確認するため。
  • 総務省側は誤ってチェックを入れることを想定していなかった。対応は自治体任せで、勘違いに気づいた場合は問い合わせをしてほしいとコメント。*20
  • 取材を受けた東京都世田谷区は申請意思確認で行われるチェックのためそのまま処理されるのが原則。勘違いによるチェックの可能性があるが詐欺防止のために電話確認は行わない。給付決定以降に修正は基本できない。とコメント。

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誤って入れることは想定されていなかった?(総務省サイトより)

更新履歴

  • 2020年5月20日 PM 新規作成
  • 2020年5月21日 AM J-LISが提供を始めた被災者支援システムを追記
  • 2020年5月21日 PM 概要図を更新、東修平氏(四條畷市長)の記事を参考として追加

*1:暗証番号再設定で1日13万件 10万円給付で窓口殺到,産経新聞,2020年5月19日

*2:新型コロナ マイナンバー 暗証番号再設定 申請1日最大13.5万件,毎日新聞,2020年5月20日

*3:10万円給付 オンライン申請 「想定を超えていた」,FNN,2020年5月19日

*4:10万円オンライン、甘さ認める マイナンバー手続き急増,静岡新聞,2020年5月19日

*5:現金10万円給付 オンライン申請に必要な暗証番号忘れ 窓口混雑,NHK,2020年5月7日

*6:10万円給付、「オンライン申請」で自治体の窓口混雑,日本経済新聞,2020年5月14日

*7:給付金のオンライン申請、トラブル対応で窓口混乱 三田市,神戸新聞,2020年5月1日

*8:10万円給付、オンライン申請 姫路市に問い合わせ殺到,神戸新聞NEXT,2020年5月9日

*9:10万円給付金オンライン申請 市民殺到で手続き停止 姫路市,神戸新聞NEXT,2020年5月12日

*10:新型コロナ 10万円給付金、オンライン申請 自治体、手作業膨大,毎日新聞,2020年5月18日

*11:10万円、何度も申請できちゃう?本末転倒のオンライン,朝日新聞,2020年5月14日

*12:現金10万円給付 オンライン申請 各地で課題が浮き彫りに,NHK,2020年5月19日

*13:10万円オンライン申請でミス多発、6割に不備…市が郵送に一本化,読売新聞,2020年5月19日

*14:高松市、給付金10万円のオンライン申請中止 不備多く,日本経済新聞,2020年5月19日

*15:「1人10万円給付」15回申請した人も…オンライン申請で“重複申請”発生なぜ,MBS,2020年5月15日

*16:10万円給付 オンライン申請停止 八王子市,読売新聞,2020年5月21日

*17:東京都内でも「10万円」申請開始…支給日まちまち、募るいらだち,読売新聞,2020年5月13日

*18:東京都内でも「10万円」申請開始…支給日まちまち、募るいらだち,読売新聞,2020年5月13日

*19:迅速な給付目指したというが 定額給付金オンライン申請、作業煩雑で自治体苦悩,毎日新聞,2020年5月19日

*20:10万円給付金の申請で「希望しない」に勘違いでチェック注意…あとで修正は可能? 総務省に聞いた,FNN,2020年5月18日