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TSMCのWannaCry被害についてまとめてみた

台湾のチップ製造大手 Taiwan Semiconductor Manufacturing Co Ltd (TSMC)がマルウェアの感染により製造システムに影響が及びました。ここでは関連情報をまとめます。

公式発表

インシデントタイムライン

日時 出来事
2018年8月3日 夕方 TSMCの社内ネットワークでマルウェア感染が発生。生産設備に影響が生じた。
2018年8月5日 TSMCマルウェア感染の事実を公表。
〃 14時(台湾時間) 影響を受けた製造ツールの約80%が復旧された。
2018年8月6日 TSMC CEO(魏哲家氏)がマルウェア感染についての記者会見。
TSMCの被害が完全復旧したと発表。

TSMCで発生した被害

マルウェア感染により生産に影響が出た工場
  • TSMCの3拠点の生産施設で影響が生じた模様。
  • 感染被害の状況は施設により異なる。
    • 台南
    • 新竹
    • 台中
  • TSMCの12インチウェハ製造施設の全てが影響を受けた可能性をアナリストが指摘。*1
  • 先進的なシステムほど自動化が進んでおり、7nm、10nmの製品を生産する設備に比較的大きな影響が生じた。*2
実質的な被害
  • TSMC社内のパッチが適用されていない1万台以上のWindows 7環境で被害。*3
  • TSMCの製造するチップの出荷遅延が発生。
  • 出荷遅延は2018年第4四半期までに回復する見込み。
  • TSMC保有する完全性、及び機密情報に対する被害は確認されていない。
  • マルウェアによりTSMCの施設が停止したのは今回が初めて。
マルウェア感染によって発生した被害額
  • 2018年第三四半期の収益(85億5千万〜84億5千万ドル)の約3%(約250万ドル)相当。
  • 粗利益率は約1%低下の影響を受ける見込み。
  • TSMCの2018年の収益予測は維持。(米ドル換算ベース)
  • 実際には損失幅は減少する可能性があり、TSMCはマイナスを約2%(最大約190万ドル)に下方修正しているとの報道がある。
株価への影響
  • 2018年8月6日にTSMCの株価が台北で1%程度下落した。


感染したマルウェアの詳細

  • 感染したマルウェアは複数のメディアでWannaCryの亜種と報じられている。*4
  • マルウェアの具体的名称は8月6日の記者向け発表中に明らかにされた。*5
  • TSMCの公式発表ではマルウェアの名前は記載されていない。
  • 身代金の要求は行われていない。

感染原因

  • 直接的な原因はサプライヤーによる作業ミスで、攻撃ではない。*6
  • 新しいツールのソフトウェアインストールのプロセス中に発生した。
  • 該当のツールは未確認のベンダーによって提供されたもの。
  • ツールの接続を行う際に、ウィルス対策ソフトによるチェックは実施されていなかった。*7
  • 社内のネットワークに接続されていたことから、マルウェアの感染被害が拡大した。
  • 当初想定してたよりも複雑なマルウェアであったとTSMCのCEOが説明している。

TSMCの顧客

  • TSMCの大部分の顧客には8月5日の公表時点ですでに連絡が済んでいる。
  • 数日後に、顧客別に詳細情報が連絡される予定となっている。
  • Appleは製造が延期された日数分(約3日間)だけ延長されると分析しているアナリストがいる。

過去工場が被害を受けたとみられるWannaCry感染 事例

発生時期 発生元 被害状況
2017年5月12日 ルノー スロベニアの製造会社が被害を受け、生産ラインの稼働を一時的に停止した。
2017年5月13日 日産 英国のサンダーランド自動車工場で障害発生。一時的に生産停止の被害。
2017年6月19日 本田技研工業 狭山工場(オデッセイ、ステップワゴンなど1日約1000台を生産)の操業が約1日停止した。
日本、北米、欧州、中国などの地域で被害が発生。
2018年3月28日 Boeing Commercial Airplane マルウェアが限定的な範囲で侵入し、少数のシステムに影響。製造、納入への影響はなかった。

更新履歴

  • 2018年8月7日 AM 新規作成