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LinkedInでの接触から始まった積水化学工業元社員の営業秘密情報持ち出しについてまとめてみた

2020年10月13日、大阪府警は不正競争防止法違反の容疑で化学メーカー元社員を書類送検しました。元社員は在職当時、中国企業へ自社の営業秘密に当たる情報を漏えいした疑いがもたれています。ここでは関連する情報をまとめます。

不正競争防止法容疑で書類送検

  • 営業秘密の漏えいが行われたとされるのは積水化学工業。中国企業は潮州三環グループと報じられている。
  • 犯行は2018年8月上旬から半年にかけ行われ、営業秘密に該当する技術情報を中国企業の社員にメールで送信した疑いがもたれている。
  • 書類送検の容疑は不正競争防止法違反(営業秘密の領得、開示)。

スマホ画面用素材の技術情報漏えいか

  • 漏えいしたとみられるのはスマートフォンの画面に使われる素材「導電性微粒子」に関係する情報(製造設備のリスト)
  • 元社員は積水化学工業の技術開発部門で勤務。営業秘密にアクセスすることが可能だった。
  • 元社員は当時勤務していた社内サーバーから私物のUSBメモリにコピーし営業秘密に当たる情報を不正に入手。*1
  • 私用PCとフリーメールを用いて2回にわたり中国企業側へ送信していた。

中国からLinkedIn通じ接触

  • 中国企業は元社員に対し、LinkedInを使って接触を行っていたことが判明している。*2
  • 元社員はLinkedIn上で氏名、社名の他、導電性微粒子の研究に関わっていることを公開していた。
  • 中国企業側は積水化学工業の取引先として元社員に接触。LinkedInで接触後にメール等で連絡を交わし、元社員を中国企業の負担で中国に数回招いていた。*3
  • 取引先でないことは訪中後に判明したが、元社員は在籍をしたまま、中国企業から技術指導として非常勤の技術顧問就任を打診されていた。直接的な金銭の授受は確認されていない。

動機は社内評価か

  • 元社員は中国企業の社員と技術情報の交換を通じ自身の知識を深め社内評価を高めることだったと供述している。自身の研究に対する社内評価にも不満があったとも報じられている。*4
  • 中国企業側が示した技術が自社にないものだったという。
  • 交換と供述はしているが、実際には中国企業側から元社員に対して情報提供が行われたことは一度もなかった。
  • 同僚が元社員の不正行為に気づきこれを指摘。その後の社内調査により事案が発覚した。*5

事案発覚受け懲戒解雇と刑事告訴

  • 積水化学工業は事案発覚を受け、懲戒処分と大阪府警へ刑事告訴。
  • 元社員は容疑を認めていたことから、府警は逮捕を見送ったとしている。
  • 中国企業の関係者が中国本土にいることから捜査が出来ず、漏えいした情報の使途等は明らかになっていない。
  • 今回の事案を受け、積水化学工業は情報管理と従業員教育の徹底を行う。
  • 元社員は懲戒解雇の後、別の中国企業大手通信機器メーカーの国内事業所に再就職をしている。

元社員への有罪判決(大阪地裁)

  • 2021年8月18日、大阪地裁は元社員に対して懲役2年、執行猶予4年、罰金100万円の有罪判決。「中国企業の勧誘を受け、製品開発に継続的に協力した犯行で悪質」「営業秘密の国外流出に強い抑止力を働かせる必要」と裁判官は発言している。*6 *7
  • 判決では流出した営業秘密情報を使って中国企業が商品開発を行うことで大きな影響を積水化学工業に与える恐れがあったと指摘。
  • 積水化学工業側に実質的な損害はなかったこと、元社員に経済的利益を得ていなかったことは踏まえつつも、本事案の様な国外への技術情報流出への抑止のために罰金刑は求刑相当とされた。*8

関連タイムライン

日時 出来事
中国企業が元社員へLinkedInを使って接触。
元社員が訪中。中国企業より技術指導の依頼を受ける。
2018年8月~2019年1月 元社員が中国企業へ営業秘密を含む情報をメールで送信した疑い。
同僚の指摘を受け内部調査により元社員の不正行為が発覚。
2019年5月末 積水化学工業が元社員に対し懲戒解雇処分。
2019年9月 積水化学が大阪府警へ刑事告訴。
2020年10月14日 大阪府警が元社員を不正競争防止法違反の容疑で書類送検したと発表。(送検日は13日)
2021年8月18日 大阪地裁は元社員へ懲役2年、罰金100万円、執行猶予4年の有罪判決。

更新履歴

  • 2020年10月15日 PM 新規作成
  • 2021年8月22日 PM 続報反映(元社員への判決)